隠居生活

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エリザベート~愛と死の輪舞~ 感想

 現在宝塚の宙組で公演されている「エリザベート~愛と死の輪舞~」を観に行きました。元はウィーンで誕生したミュージカルですが、今から20年前の1996年に初めて日本で宝塚版として上演されました。今回は20周年としてかなり気合が入っているのを感じました。自分はその後母から頼まれて2014年verの明日海りお主演の方の円盤も買ったのですが、そちらも宝塚100周年記念の時のだったのでか、クオリティが半端なかったです。

 この感想文はどちらかというと「エリザベート~愛と死の輪舞~」という作品の感想なので演者さんについてはそこまで言及していません。ご了承ください。

 

kageki.hankyu.co.jp

 

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エリザベートとは?

 このミュージカルはオーストリア皇后、エリーザベトの一生をなぞった物語です。エリーザベトは王家の傍系の次女として生まれました。彼女は自由を愛しのびのびと暮らす父親に強く憧れていて、父と共に街に出かけて奏者に扮した父の傍らでチップを貰う少女に扮したり、乗馬や狩猟を嗜んだりと王位継承とは遠く公務とは無縁だったために、エリーザベトも自由を愛する性格でした。

 そんな生活は姉の見合い相手だった母方の従兄であるフランツ・ヨーゼフ1世に見惚れられ求婚されたことで終わりを告げました。大自然に囲まれた開放的な環境で育った彼女。しかし、運命の皮肉でよりによって彼女はオーストリア帝国皇后となり、最高位に昇りつめてしまいます。

 自由人だった彼女は姑であるゾフィー大公妃が取り仕切る厳格な宮廷の生活、またゾフィーの嫌がらせに耐え切れず、生涯にわたって様々な口実を見付けてはウィーンから逃避していました。

 ゾフィーハンガリーを嫌っていたこともあり、エリーザベトは心を安らげる場所としてよくハンガリーを訪問し、勉強嫌いの彼女が短時間でハンガリー語を習得する程にハンガリーを愛していました。

 また彼女についての逸話としては美貌を保つ為のダイエットも有名です。自他ともに絶世の美女と認識していたので、エリ―ザベトは国の権威を誇る為にも、そして自分の居場所を保つためにも美貌を保っていたとも見られます。ミルク風呂にはちみつパック、特製のシャンプーに食べる物は卵とオレンジのみ。1日に林檎1個という事も珍しくなかった。彼女の体型は死ぬまで保たれ、最晩年を除けば顔も信じられない程若かったそうです。

 皇后でありながら君主制を否定した「進歩的な女性」と評されることもあるエリーザベトですが、一方で皇后・妻・母としての役目は全て放棄、拒否しながら、その特権は享受し続け、莫大な資産によって各地を旅行したり法外な額の買い物をしたりするなど、自己中心的で傍若無人な振る舞いが非常に多かったとも言われています。ここだけ見れば例のマリーアントワネットを連想するのですが、ハンガリー統治に関しては関心と情熱を傾けたため、過去に近隣の大国に翻弄され、さまざまな苦難の歴史をたどったハンガリーが現在平和な独立国家となった礎を築いた人物として彼女は慕われています。

 そして1898年、旅行中のジュネーヴレマン湖のほとりでイタリア人のルイジ・ルケーニに短剣のようなもので刺されて生涯を閉じました。

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「ミュージカル・エリザベート

 そのルイジ・ルケーニが語り手となって始まるのがミュージカル・エリザベート

主点となるのはエリザベートの愛は一体どこにあったのか、エリザベートは何を愛したのか」

 エリザベートは豪華絢爛な宮廷の中では常に孤独でした。(なので現実逃避に頻繁に旅行や訪問に行っていたのですが)そんなエリザベートの生涯の物語を彩るのは黄泉の帝王・トートというキャラクターです。

 黄泉の帝王トートは、エリザベートに一目ぼれして幾度もなく黄泉の世界に誘おうとします。死を帝王と言う擬人化のキャラクター造形、怪しい美しさ、トートの持つ一種の華やかさと非日常感が少女漫画的なエッセンスを出していました。さすが宝塚。

 このミュージカルはある種の暗さがかなりの割合を含めているのですが、同時に少女漫画的なキラキラした部分もある不思議な雰囲気のある舞台でした。

 

 

エリザベートの愛はどこにあったのか

 結論から言ってしまうと、自分の感想としては「エリザベートは死ぬまで自由を愛していた」んじゃないかなと思いました。エリザベートは幼少期から晩年まで、ずっと自由に憧れていた。少女の時に無邪気に「お父さんみたいになりたい!」と言っていた時から、晩年の病院に訪問しに行った時に自分の事をエリザベートだと思っている精神障害の少女に「貴方の命は自由」と静かに涙を流すまで、ずっと一生涯自由を愛し続けた。

 そして死してなお「私の人生は私だけのもの」と高らかに歌い、黄泉の帝王トート閣下と天上に上がっていくエリザベートは、他の死者たちが闇の中で沈んでいるのと対照的でした。

 エリザベートは生涯に渡り自由を愛し、そしてまた死に愛されていました。

 

 

 それにしても気の毒なのは彼女の夫・フランツ・ヨーゼフでしょう。多くの身内をなくし、遂には最愛の妻まで殺されてしまった。しかも、更にこの先にはルドルフ亡き後の皇太子と成ったフランツ・フェルディナントをサラエヴォで暗殺されている。誰かに呪われているとしか思えない程の悲劇の連続だったのです。

 そのフランツ・ヨーゼフは常々語っていたという。「私がシシィをどれ程愛したか、誰にも判るまい。」と。

 

ルドルフの孤独

 トート閣下はエリザベートに一目ぼれして彼女の愛をひたすらに求めていたのですが、何故か途中息子のルドルフに脱線します。そしてトート=死に翻弄され、結局ルドルフは自殺。初めて見たとき「なぜ脱線したし」と思ったのですけど、トート閣下は「死」の象徴とみれば何となく納得いきました。

 作中でも「僕とママは同じ」とルドルフが歌っている通り、ルドルフもまたずっと孤独を抱えていました。上にも書いた通り、エリザベートは育児はせずにずっとウィーンから逃れるようにして旅を続けていたので、ルドルフは愛に飢え、孤独を抱えていた。「この世に休めるところはない」と歌っていたその通りの環境だった。ルドルフはずっといわゆる死の匂い、孤独の匂いを漂わせていて、そこがエリザベートと同じだったのでトート=死がちょっかいをかけにきたのかなと…とんだとばっちりである。

 

 

 

 

 ハプスブルグ家の終焉、不幸に見舞われた皇后の物語を世紀末のウイーンの退廃的な雰囲気、「死」が擬人化された世界、暗く悲しくも華麗な音楽で彩り魅せる宝塚歌劇団の実力はもう言葉にできないです。とてもよかった。初めて観に行ったけど完全に引き込まれました。女性たちに長年愛されているはずだ。

 やっぱりトートのキャラクターの強烈さはすごい。二つの公演もそれぞれ妖しくも美しい人外感と、同時にずっと生きているエリザベートの愛を求めている純情っぷりも明日海さん、朝夏さん演じるトートそれぞれ違う魅力があって面白かったです。舞台のいいところですね。

 まだ見たことない人は是非観覧をお勧めします。と言ってもチケットはそう取れるものでもないだろうし…というひとはまず円盤からおすすめします。題材は暗く死の匂いが濃く漂うものなのに、それを宝塚特有のきらびやかな効果で上手く調和しているのが本当に最高の相乗効果だなと。

 

お粗末様でした。